解表剤の漢方薬|東洋医学の薬剤
解表剤一覧
解表剤(げひょうざい)とは、外から外邪が侵入することが原因の[表証]を改善するための漢方薬です。漢方薬にはいろいろな効能があるので、分類方法は場合によって違いがある場合があります。生薬の組み合わせも異なる場合が多々あります。また、副作用や組み合わせによる注意点がある場合がありますがここには記載しておりません。実際に使用する場合は、必ず専門の医師に相談してお使いください。
※図や表以外で、東洋医学の言葉は全て[ ]の中に表しています。例えば、[心]は東洋医学での[心](しん)を表し、普通に心と書いてある場合は、通常の「こころ」を表しているとお考え下さい。そして[ ]内の言葉はまとめて東洋医学の言葉一覧のページで意味を調べられます。
目次
1.藿香正気散(かっこうしょうきさん)
平胃散をベースに、藿香をはじめとした生薬を組み合わせた処方です。[胃]をすっきりさせてくれます。また、湿度の高い時期や夏の体の冷えに向いています。夏に体を冷やしすぎたことによるかぜの初期や吐き気、嘔吐、下痢などに。
八綱弁証 | 表証・寒証 |
気血水弁証 | 水滞 |
臓腑弁証 | 脾、肺 |
組成
白朮、茯苓、陳皮、白芷、藿香、大棗、甘草、半夏、厚朴、桔梗、蘇葉、大腹皮、生姜 |
体質
体力中等度以下
適応症
かぜや暑さによる食欲不振、急性胃腸炎、下痢、全身倦怠感など
2.葛根湯(かっこんとう)
かぜの初期症状に良い有名な漢方です。体を温め、発汗を促し、汗と一緒に[邪]を取り除いてくれます。体力がある人に向きます。体力が中程度以下の人には小青竜湯が向きます。かぜ以外にも、皮膚や手足にあらわれる炎症にも向きます。血行を良くして筋緊張を解くため、頭痛、肩こり、筋肉痛、首や肩のしびれや痛みなどにも効果的です。
八綱弁証 | 表証・寒証・実証 |
気血水弁証 | – |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
葛根、麻黄、桂皮、生姜、甘草、芍薬、大棗 |
体質
体力中等度以上
適応症
かぜの初期(汗をかいていない)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛みなど
3.葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)
葛根湯に川芎と辛夷をプラスしたものです。川芎は側頭部の頭痛を除いてくれ、辛夷は鼻づまりの改善に良いです。かぜの初期症状の場合は葛根湯を選びますが、さらに鼻炎や蓄膿症といった鼻から頭にかけての不調があるときに使用します。後頭部や首の後ろ、背中のこわばりを伴う慢性頭痛にも。
八綱弁証 | 表証・寒証・実証 |
気血水弁証 | 気滞、瘀血 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
葛根、麻黄、生姜、大棗、桂皮、芍薬、甘草、川芎、辛夷 |
体質
体力がある人
適応症
鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎、慢性頭痛など
4.桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)
桂枝湯に黄耆を加えた処方です。体表部の[気]が不足して、発汗がうまくいかない人に向いています。そのような人は全体的に冷えがあり、腰から上は、じめじめした汗が出て、腰から下はむくみやすいもの特徴です。
八綱弁証 | 表証・寒証・虚証 |
気血水弁証 | 気虚 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草、黄耆 |
体質
体力虚弱
適応症
寝汗、あせも、湿疹、皮膚炎など
5.桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう)
桂枝湯に葛根を加えた処方です。葛根湯には麻黄という生薬が入っていて、[気虚]や胃腸が弱い人には使いにくいですが、桂枝加葛根湯は使いやすくなっています。葛根は後頭部・首の後ろ・肩・肩甲骨の筋肉の痛みを取ってくれる作用があるので、緊張が他の頭痛・肩こりにも向いています。
八綱弁証 | 表証・寒証・虚証 |
気血水弁証 | – |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草、葛根 |
体質
体力中等度以下
適応症
汗が出て、肩こりや頭痛の症状がある場合の、かぜの初期に
6.桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)
桂枝湯に厚朴と杏仁をプラスした処方です。桂枝湯は[気虚]の人の気管支ぜんそくに向きますが、さらにかぜが悪化してぜんそく発作が誘発しないようにしたい時などに桂枝加厚朴杏仁湯を用います。
八綱弁証 | 表証・寒証・虚証 |
気血水弁証 | 気逆 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草、厚朴、杏仁 |
体質
体力虚弱
適応症
せき、気管支炎、気管支ぜんそくの症状に。
7.桂枝加芍薬生姜人参湯(けいしかしゃくやくしょうきょうにんじんとう)
桂枝湯に芍薬と生姜を増量し、人参を加えた処方です。
八綱弁証 | 裏証・表証・寒証・虚証 |
気血水弁証 | 気虚 |
臓腑弁証 | 脾、肺 |
組成
桂皮、大棗、芍薬、生姜、甘草、人参 |
体質
体力虚弱
適応症
胃腸が冷えることで生じるみぞおちのつかえ、腹痛、手足の痛みなど
8.桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
桂枝湯の芍薬の割合を1.5倍にしたものです。芍薬は腸の運動を改善してくれます。そのため、腹痛やお腹の張りに効きます。
八綱弁証 | 裏証・表証・寒証・虚証 |
気血水弁証 | – |
臓腑弁証 | – |
組成
桂皮、大棗、生姜、芍薬、甘草 |
体質
体力中等度以下
適応症
腹部膨満感がある場合の、しぶり腹(便意があるのに出ない・出ても少ない)、腹痛、下痢、便秘、過敏性腸症候群など
9.桂枝湯(けいしとう)
漢方の中で様々な処方の基本となっているものです。胃腸虚弱の人も使えるので、インフルエンザなどに使われる麻黄湯が強すぎる場合に使えます。体を温めながら発汗過多を防ぎつつ、かぜの症状を治します。
八綱弁証 | 表証・寒証・虚証 |
気血水弁証 | – |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草 |
体質
体力虚弱
適応症
寒気があるのにじわっと汗が出る症状がある、かぜの初期に
10.荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)
熱を冷まし、膿を出し、かゆみを止める作用があり、皮膚疾患に使われます。さらに総合感冒薬として、頭痛・手足の痛み・しびれに使われることもあります。
八綱弁証 | 表証・実証・虚証 |
気血水弁証 | – |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
荊芥、防風、羌活、独活、柴胡、金銀花、連翹、川芎、枳実(もしくは枳殻)、前胡、桔梗、甘草、生姜、薄荷、(薄荷のかわりに茯苓、人参の場合も) |
体質
体力がある人
適応症
急性化膿性皮膚炎疾患の初期、湿疹、皮膚炎の症状に。
11.桂麻各半湯(けいまかくはんとう)
麻黄湯と桂枝湯を合わせた処方です。桂枝湯では作用が弱すぎるけれど麻黄湯だと強すぎる場合に用います。また、かぜが長引いで皮膚にかゆみが出てきたときに、発汗によって改善する作用があります。
八綱弁証 | 表証・寒証 |
気血水弁証 | – |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
桂皮、麻黄、生姜、杏仁、芍薬、甘草、大棗 |
体質
体力中等度以下
適応症
かぜ、咳、かゆみに
12.香蘇散(こうそさん)
かぜの症状があっても、葛根湯や麻黄湯は配合されている麻黄によって胃もたれを起こしてしまう人の代替として使われます。気の流れを良くする香附子が含まれているので、ストレスによる胃腸の不調、軽度のうつ症状にも向いています。
八綱弁証 | 裏証・表証 |
気血水弁証 | 気滞 |
臓腑弁証 | 脾、肺 |
組成
蘇葉、香附子、陳皮、甘草、生姜 |
体質
体力虚弱
適応症
神経過敏、気分がすぐれない、胃腸が弱い症状がある人に向いています。そのような人のかぜの初期や血の道症(女性ホルモンの乱れによって起こる精神的・身体的症状)に。
13.小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
冷えた体に溜まった水分を取り除く作用があります。かぜの初期症状に良い基本の漢方です。葛根湯もかぜの初期症状に良い有名な漢方ですが、体力がある人に向きます。小青竜湯は体力が中程度以下の人に向きます。特に寒がりの傾向があり、寒さによって症状が悪化する場合に向きます。花粉症の代表的な漢方でもあります。
八綱弁証 | 表証・寒証・実証 |
気血水弁証 | 気逆、水滞 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
麻黄、桂皮、芍薬、細辛、乾姜、五味子、半夏、甘草 |
体質
体力中等度以下
適応症
水っぽい痰を伴う咳や鼻水の症状がある人に向いています。そのような人の気管支炎、気管支ぜんそく、鼻炎、アレルギー性鼻炎、むくみ、かぜ、花粉症に。
14.小青竜湯加石膏(しょうせいりゅうとうかせっこう)
小青竜湯に石膏をプラスしたものです。小青竜湯に向く症状にプラスして、のどの痛みや炎症がある、咳がひどい、熱がこもっている、気持ちが落ち着かないなどの症状がある場合に向いています。
八綱弁証 | 表証・寒証・熱証・実証 |
気血水弁証 | 水滞 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
麻黄、桂皮、芍薬、細辛、乾姜、五味子、半夏、甘草、石膏 |
体質
体力中等度
適応症
水っぽい痰を伴う咳や鼻水の症状と、のどの渇きがある人に向いています。そのような人の気管支炎、気管支ぜんそく、鼻炎、アレルギー性鼻炎、むくみ、かぜに。
15.小青竜湯合麻杏甘石湯(しょうせいりゅうとうごうまきょうかんせきとう)
小青竜湯と麻杏甘石湯を合わせたものです。かぜでのどや鼻の炎症が悪化したときに使います。小青竜湯より強い処方です。
八綱弁証 | 表証・寒証・熱証・実証 |
気血水弁証 | 水滞 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
麻黄、桂皮、芍薬、細辛、乾姜、五味子、半夏、甘草、杏仁、石膏 |
体質
体力中等度
適応症
せきが出てのどが渇くといった症状がある人に向いています。そのような人の気管支ぜんそく、小児ぜんそく、せきに。
16.升麻葛根湯(しょうまかっこんとう)
八綱弁証 | 表証・熱証 |
気血水弁証 | – |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
升麻、葛根、芍薬、生姜、甘草 |
体質
体力中等度
適応症
頭痛、発熱、悪寒といった症状がある人に向いています。そのような人のかぜの初期、湿疹、皮膚炎に。
17.参蘇飲(じんそいん)
[気虚]や胃腸が弱い人にも使える総合感冒薬です。胃腸の調子を整えながら、かぜの諸症状を和らげます。
八綱弁証 | 裏証・表証・寒証・虚証 |
気血水弁証 | 気虚、水滞 |
臓腑弁証 | 肺、脾 |
組成
人参、蘇葉、葛根、前胡、桔梗、陳皮、半夏、茯苓、甘草、枳実、乾姜(または生姜)、大棗、(木香) |
体質
体力虚弱
適応症
胃腸が弱い人の、長引いているかぜに。頭痛・発熱・痰・吐き気・嘔吐が見られる場合にも。
18.麻黄湯(まおうとう)
感染症に使う処方の代表で、桂枝湯と対になっています。体力がある人向けで、[気血]の不足や発汗が無い場合に使います。その場合の強い寒気、発熱、関節痛に向いています。インフルエンザの初期に用いると効果的です。
八綱弁証 | 表証・寒証・実証 |
気血水弁証 | 水滞 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
麻黄、桂皮、杏仁、甘草 |
体質
体力がある人(※虚弱の人は使用しない)
適応症
かぜの引きはじめで、寒気、発汗、頭痛、咳、体の関節が痛い、汗が出ていないといった症状がある人に向いています。そのような人のかぜ、鼻かぜ、気管支炎、鼻づまりに。
19.麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
[腎]の[陽虚]があり、寒がりの人の感染症の症状に向いています。体を強力に温め、発熱や寒気、のどや節々の痛みなどの症状を改善します。高齢者で、葛根湯が効かなくなった場合にも。
八綱弁証 | 表証・寒証・虚証・陽虚 |
気血水弁証 | 気虚 |
臓腑弁証 | 肺 |
組成
麻黄、附子末、細辛 |
体質
体力虚弱
適応症
手足に冷えがあり、時に悪寒がある人に向いています。そのような人のかぜ、アレルギー性鼻炎、気管支炎、気管支喘息、神経痛に。
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