脾・胃に関する不調・症状|東洋医学の実践
脾・胃に関する症状
これまで東洋医学の基本的な概念の説明と、どのように不調を診断していくかを説明してきました。体調やライフスタイルの情報を集めたら、次は体調を分類し分析していきます。東洋医学での不調の分類の仕方は、まず、[陰陽]、[気血津液]、[臓腑]のどの観点から分析するかで3つに分かれます。今回はその臓腑の中の[脾][胃]に関わる不調の種類を説明していきます。これまでの詳しい説明は下記をご覧ください。
※図や表以外で、東洋医学の言葉は全て[ ]の中に表しています。例えば、[心]は東洋医学での[心](しん)を表し、普通に心と書いてある場合は、通常の「こころ」を表しているとお考え下さい。そして[ ]内の言葉はまとめて東洋医学の言葉一覧のページで意味を調べられます。
目次
[脾][胃]タイプの特徴
[脾][胃]は、消化器や胃腸と密接に関わっています。[脾][胃]に不調が出やすい人は、食がとても細い、もしくはとても大食いの両極端な場合が多いです。そして[脾]は[肌肉]に対応しているため体系にも現れやすいです。[脾][胃]に不調がある人は、極端にやせていたり、もしくは水太りしている人が多いです。[脾]は[湿]を嫌うので、湿度の多い日本ではこのタイプの人が多くいます。さらに詳しく分類された特徴は下記になります。本来診断は色々なヒアリングなどから総合的に行いますが、自分が[五臓]のどのタイプに当てはまるかの簡単なチェックは下記をご覧ください。
[脾気虚](ひききょ)
[脾]の機能が低下している状態です。飲食の偏り、過労、感情の乱れ、先天不足などが原因になります。基本的には[脾気]を補い[脾]の機能を保つ[益気健脾](えっきけんぴ)という治法を行います。[脾]には主に4つの働きがありました。栄養素を消化して運ぶ[運化]、栄養素を上に持ち上げる[昇清]、内臓などを本来あるべき位置に保つ[昇堤]、血を血管から漏れないようにする[統血]です。これらのどの機能が低下するかによって3つに症状が分かれます。
症状
脾不健運(ひふけんうん)
[脾気虚]の場合はまずこの症状から入ることが多く、[運化作用]の失調が原因です。そのため、食欲不振、疲れやすい、全身の倦怠感、食後に腹部が張る、泥状の便、無気力、痩せているなどの症状が出ます。顔色は薄黄色で、[舌質]は淡白・[胖大]・[歯痕]、[舌苔]は[白苔]です。
中気下陥(ちゅうきげかん)
[脾不健運]が悪化するとなります。[気陥]のような状態で、[昇清作用][昇堤作用]の失調が原因です。そのため、めまい、胃下垂、子宮下垂、脱肛、脱腸、食用不振、食事をすると眠くなる、下痢、大便失禁などの症状が出ます。
脾不統血(ひふとうけつ)
こちらも[脾不健運]が悪化するとなります。[統血作用]の失調が原因です。そのため、皮下出血、鼻血、血尿、血便、月経量過多、月経血が薄い、子宮の内部がただれて月経が止まらない[崩漏](ほうろう)などの症状が出ます。
処方例
漢方
四君子湯(しくんしとう) |
精油
[脾陽虚](ひようきょ)
上記の[脾気虚]が慢性化して進むと[脾陽虚]になります。[脾陽]が不足し、[気]の[温煦作用]が低下した状態です。なまものや冷たいものの摂りすぎや、身体を冷やす薬物の使い過ぎなども原因です。温めて[脾]の[運化作用]を活発にする[温中健脾](おんちゅうけんぴ)という治法を行います。
症状
[脾気虚]の症状、顔面蒼白、腹部が冷えてしくしく痛い、触ると症状が緩和する[喜按]、温めると症状が緩和する[喜温]、冷えによる水溶性の下痢、むくみ、おりものが透明無臭で多いなど
処方例
漢方
桂枝人参湯(けいしにんじんとう) |
精油
フェンネル、マジョラム、コリアンダー、ジンジャー |
[湿邪困脾](しつじゃこんぴ)
[湿邪]が過剰になって[脾]を傷めている状態です。もとから[脾]は[湿]に弱く、[湿邪]によって[脾]の[運化作用]が低下します。それが[水滞]を生み出します。[水滞]が慢性化して[湿邪困脾]になります。そしてその[湿邪]に[寒]が加わるか、[熱]が加わるかによって2種類の症状に分けられます。
寒湿困脾(かんしつこんぴ)
[脾]の[運化作用]の低下によって[寒]と[湿]が停滞した状態です。なまものや冷たいものの摂りすぎなども原因になります。[脾]を温めて[湿邪]を取り除く[温中化湿](おんちゅうかしつ)という治法を行います。
湿熱困脾(しつねつこんぴ)
[脾]の[運化作用]の低下によって[熱]と[湿]が停滞した状態です。油っぽいもの・甘いもの・お酒・辛いものの摂りすぎも原因になります。[熱]を冷まして[湿邪]を取り除く[清熱化湿](せいねつかしつ)という治法を行います。
症状
寒湿困脾
口が粘る、食欲不振、胃のむかつき、冷えによる下痢、唾液が多い、皮膚が暗黄色、おりものが透明無臭で多い、[舌苔]が[白苔]や[膩苔]など
湿熱困脾
全身倦怠感、口が粘る、食欲不振、胃のむかつき、胃が重い、吐き気、嘔吐、[口苦]、黄疸、おりものが黄色くにおいが強い、便秘、泥状の便、尿が黄色く少量、[舌苔]が[黄苔]や[膩苔]など
処方例
漢方
精油
[胃寒](いかん)
[胃]が[寒邪]に侵されている状態です。冷えが原因でいきなり起こる胃痛です。温めると症状が和らぎます。生ものや冷たいものの摂りすぎで胃が収縮することが原因です。[胃]を温めて[寒邪]を取り除く[温中散寒](おんちゅうさんかん)という治法を行います。
症状
顔色が青い、[喜温]、冷えからの胃痛、唾液が多い、[呑酸](どんさん)、腹鳴など
舌の状態
[舌質]は淡白、[舌苔]は[滑苔]
処方例
漢方
安中散(あんちゅうさん) |
精油
コリアンダー、ジンジャー、フェンネル |
[胃火](いか)[胃熱](いねつ)
[胃]が[火邪]に侵されている状態です。[肝火上炎]から発展しやすいです。この症状もいきなり起こります。辛い物の摂りすぎ、強い緊張、暴飲暴食などが原因です。[胃]の[熱]を取り除く[清胃瀉火](せいいしゃか)という治法を行います。
症状
胃痛、胸やけ、強い口臭、歯茎の腫れと出血、[口苦]、食べてもすぐ食べたくなる、[口渇]、[呑酸]、便秘、尿が黄色など
舌の状態
[舌質]が紅色、[舌苔]が[黄苔]や[腐苔]
処方例
漢方
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、黄連解毒湯(おうれんげどくとう) |
精油
ペパーミント、ライム、レモン |
[食滞胃脘](しょくたいいかん)
食べたものが消化せずに胃の中に停滞している状態です。胃が弱い人が消化の悪いものを食べたり、暴飲暴食、夕食後にすぐ寝る、などが原因でおこります。吐くと楽になります。消化を促進して[食積]を改善する[消食導滞](しょうしょくどうたい)という治法を行います。
症状
強い口臭、吐き気、嘔吐、胃の張痛など
舌の状態
[舌苔]が[厚苔]・[膩苔]・[腐苔]
処方例
漢方
化食養脾湯(かしょくようひとう) |
精油
ペパーミント、グレープフルーツ |
[胃陰虚](いいんきょ)
[胃陰]が不足している状態です。一食分食べられないような食が細い人などに多いです。辛い物の食べ過ぎや熱病の後になりやすいです。[陰液]を補い[胃]の機能を回復する[滋養胃陰](じよういいん)という治法を行います。
症状
胃がしくしく痛い、胃の張りやつかえ、[五心煩熱]、[口乾]、便秘、コロコロ便など
舌の状態
[舌質]は暗紅色、[舌苔]が少ない
処方例
漢方
麦門冬湯(ばくもんどうとう) |
精油
ベチバー、フランキンセンス |
[心脾両虚](しんぴりょうきょ)
[心血虚]と[脾気虚]の状態です。もともと[脾気虚]の人がなりやすいです。[脾]の機能低下によって、[気血]の生成と[統血]作用がうまくいかなくなると[心血]が不足します。さらに[心血]が不足すると[血]の血行が悪くなり、[脾]を滋養する働きが悪くなります。この悪循環を[心脾両虚]と言います。女性の産後に多い症状です。慢性疾患、過労、考えすぎ、慢性出血などが原因です。[心血]と[脾気]を補う[補益心脾](ほえきしんぴ)という治法を行います。
症状
動悸、健忘、眠いが眠れない、多夢、食欲不振、軟便や下痢、疲労倦怠感、顔がうす黄色、皮下出血、月経量過多、月経の色が薄い、[崩漏](ほうろう)、閉経など
舌の状態
[舌質]は淡白
処方例
漢方
帰脾湯(きひとう) |
精油
コリアンダー、マジョラム |
[肝脾不和](かんぴふわ)
[肝気鬱血]と[脾気虚]が一緒になった状態です。[脾]の[運化作用]([気血津液]に変化させて運ぶ)は[肝]の[疏泄作用](巡らせる)によって助けられています。[疏泄作用]がうまくいかないと、[脾]の働きを抑えようとします。通常は[肝]と[脾]は親子関係の相生関係ですが、[肝]が過剰になった相乗関係をなってしまった状態です。主にストレスなどで感情が乱れることによって起こります。[肝]の[疏泄]を元に戻し、[脾]の機能を保つ[疏肝健脾](そかんけんぴ)という治法を行います。
症状
両脇・みぞおちの張痛い、ため息、抑うつ、食欲不振、イライラ、怒りっぽい、胃のむかつき、げっぷ、腹部膨張感、下痢や便秘を繰り返すなど
処方例
漢方
加味逍遙散(かみしょうようさん) |
精油
ベルガモット、カモミール・ジャーマン、カモミール・ローマン、マンダリン、ペパーミント |
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