トランス脂肪酸とは?|何が危険で摂取量は?含まれる食品や含有量など
トランス脂肪酸とは
トランス脂肪酸とは、不飽和脂肪酸の中でも特にトランス型と言われる構造を持つ脂肪酸のことを指します。殆どが自然界には存在しない種類のもので、大量に体内に取り入れると様々な疾患を引き起こすと言われています。そのトランス脂肪酸について、どんなもので、どんな悪影響があるのかを説明していきます。
目次
シス型とトランス型
不飽和脂肪酸には、二重結合の構造によって、シス型とトランス型に分けられます。天然の植物油脂の中には、シス型しかありません。(一部の例外は次項で説明します。)シス型は、下の図のように、二重結合の部分の水素(H)が同じ側についているものがシス型です。同じ側にあるので、不安定で、全体は折れ曲がったような形をしています。一方トランス型は、二重結合の部分の水素(H)の位置が反対側に変わってしまっています。そのため安定して、飽和脂肪酸のようにまっすぐな形になります。シス型からトランス型に変化することをエライジン化と言います。
トランス脂肪酸の4つの発生源
トランス脂肪酸は、自然界には殆ど存在しないものの、一部存在します。そしてそれは体に害を及ぼすものではありません。しかし殆どのトランス脂肪酸は人工的につくられたもので、それは体にとって良くない影響を及ぼすという研究結果が多くあります。では、どんな種類があり、どのようにトランス脂肪酸が発生するのでしょうか。それには大きく4つあります。
体にいいもの
まず、体に良い、若しくは害にならないと言われている2種類のトランス脂肪酸を紹介します。
1 反芻動物からの共役リノール酸
トランス脂肪酸は自然界には殆ど存在しませんが、唯一牛やヤギなどの反芻動物の脂質の中には存在します。0.1~5%含まれていると言われています。そのため、肉や牛乳、乳製品などに微量存在します。それらのトランス脂肪酸は、共役リノール酸とも言われます。二重結合の位置は違う場合もありますが、リノール酸と同じC18:2(C18H32O2)の構造を持ちます。そしてその二重結合の一部、もしくは全部がトランス型になっています。こういった反芻動物由来のトランス脂肪酸は、人工のトランス脂肪酸がもたらすと考えられている冠動脈疾患などのリスクにはならないと、多くの研究結果が出ています。そのため、特別な制限の規定はもうけられていません。
2 植物油脂からの共役リノレン酸
とても珍しいですが、一部の植物油脂には、元からトランス型の結合をもつ脂肪酸が含まれている場合があります。これらは共役リノレン酸とも言われます。二重結合の位置は違う場合もありますが、リノレン酸と同じC18:3(C18H30O2)の構造を持ちます。普通のリノレン酸の場合、全ての二重結合はシス型ですが、共役リノレン酸は二重結合の一部、もしくは全部がトランス型になっています。このような脂肪酸を持つものはとても少ないですが、例えば、ザクロオイルに多く含まれるプニカ酸は、共役リノレン酸の一つで、18:3(9c11t13c)の構造をもちます。(COOHから数えて11番目の炭素Cの二重結合がトランス型です。)その他にも、桐油に含まれるα-エレオステアリン酸(これは毒性があると言われています)、カレンジュラシードオイルに含まれるカレンド酸等が挙げられます。共役リノレン酸はまだ研究中の段階ですが、抗がんや抗肥満、炎症性の疾患の軽減など、体にとって有効な様々な作用があるという結果が出ています。
体によくないもの
私たちの周りにあるほとんどのトランス脂肪酸が体に良くないものです。
3 マーガリンなどに行う水素添加
人工的に不飽和脂肪酸に水素(H)を添加して、飽和脂肪酸のように油脂を安定させる方法があります。その工程でトランス脂肪酸が生成されます。水素添加される多くのものが人工の硬化油で、マーガリンやショートニングが代表例です。どれくらいのトランス脂肪酸が含まれるかは種類により開きがあります。例えばショートニングの場合はトランス脂肪酸が1~31%の割合で含まれています。
4 精製や抽出過程で生成
その他、精製された油脂の中にもトランス脂肪酸が存在します。精製過程で油脂は何度も200℃以上の高温にさらされます。不飽和脂肪酸、特にリノール酸やリノレン酸は高温に弱く、高温にさらされると通常のシス型がトランス型になります。そのため、高温抽出法で抽出されている油脂や、精製油は、ほとんどの場合トランス脂肪酸が含まれています。この場合も、どのように、具体的に何度で高温の作業をしているか、または脂肪酸の組成にもよって、トランス脂肪酸の含有量はかわってきます。基本的な高温処理からのトランス脂肪酸生成の割合は、リノール酸から1~6%、α-リノレン酸から1~65%になります。油脂の抽出や精製の詳細に関しては「植物油脂を安全に選ぶポイント」をご覧ください。
トランス脂肪酸が多い食品の一覧
体に害がない反芻動物や植物由来のトランス脂肪酸を除いて、どんなものにトランス脂肪酸が含まれているのでしょうか。厚生労働省が発表している資料から抜粋して、具体的な数値を見てみます。マーガリンやショートニング、精製油に含まれることは前述しましたが、それらの副産物にもトランス脂肪酸が含まれていることが分かります。また、厚生労働省の資料によると、1回の外食あたり、平均で500mgほどのトランス脂肪酸を摂っているという結果が出ています。
品目 | 100g中のトランス脂肪酸の量(g) |
マーガリン | 約0.3~13 |
ショートニング | 約1~31 |
食用調合油 | 約9~27 |
ビスケット類 | 約0.03~7 |
ケーキ類 | 約0.3~2.1 |
マヨネーズ | 約0.5~1.7 |
クリーム | 約0.01~12 |
トランス脂肪酸の危険性!どのように健康に影響するか?
体に良くない影響を及ぼす人工的に作られたトランス脂肪酸を摂りすぎると、どのように健康に影響するのかを説明します。多くの国でトランス脂肪酸の調査がなされています。
LDL(悪玉)コレステロールの増加とHDL(善玉)コレステロールの減少
トランス脂肪酸は、動脈硬化のリスクを高めるLDL(悪玉)コレステロールを増加させます。そして、そういった余分なコレステロールを排除してくれる作用があるHDLコレステロールは減少させてしまいます。※総エネルギーの4%以上、食品からトランス脂肪酸を摂った場合の調査結果です。
冠動脈疾患
多くの研究で、トランス脂肪酸は冠動脈疾患の原因になることが認められています。
慢性炎症
トランス脂肪酸を多く含む油脂を1カ月摂ると、炎症に関与する血中のIL-6値やTNFα値が増加するという結果があります。トランス脂肪酸を含む油脂の中には、炎症を引き起こす化学物質が含まれている可能性を示唆します。
糖尿病
トランス脂肪酸と糖尿病の関係性の調査結果が出た事例もあります。
不妊や流産
最近では、不妊や流産との関連も報告されています。アメリカでは多くの研究で、不妊や流産との関連が認められています。
がんとの関連
乳がん、前立腺がん、大腸がんとトランス脂肪酸との関連性の研究は多くなされていますが、関連するという結果が出ているものもあれば、関連性がないとする結果もあります。
アレルギー疾患
トランス脂肪酸の摂取率が多い国ほど、アレルギー性疾患の人の割合が多くなっています。3つの研究がなされ、すべて関連が認められています。
胆石
2005年のアメリカでの研究で、胆石とトランス脂肪酸との関連が認められています。
脳卒中
2007年のポルトガルでの研究で、トランス脂肪酸と脳卒中の関連が認められています。
妊娠中の胎児への影響
母親の血中にトランス脂肪酸が含まれている場合、それは胎盤を通過し胎児に移行することが分かっています。また、トランス脂肪酸を多くとる母親の母乳にはトランス脂肪酸が含まれていることもわかっています。
トランス脂肪酸の摂取量
では、実際どれくらいまで摂取したらいいでしょうか。多くの国で、トランス脂肪酸の規定がされていますが、日本では、具体的な数値の規定は定められていません。WHOでは総エネルギー摂取量の1%未満がいいと言われています。平成18年に行われた農林水産省による調査では、日本人は平均で一日0.198~0.962gのトランス脂肪酸の摂取量という結果が出ていて、これは総エネルギー摂取量の1%未満をクリアしています。グラムにすると、1日の総エネルギー摂取量が2000カロリーの場合、一日のトランス脂肪酸量は約2gが限度です。多くの場合、私たちは気づかずにトランス脂肪酸を摂り入れてしまっていて、計測することが難しいですが、できるだけ避けることが大切です。
トランス脂肪酸の摂取量まとめ
総エネルギーの1%未満 = 1日約2g (総エネルギー摂取量が2000カロリーの場合) |
次はこれを要チェック
参考資料
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/index.html
http://fooddb.mext.go.jp/index.pl
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4g.pdf
食品安全委員会. 食品健康影響評価の結果通知に関して. 2012
厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準」 (2010年版)ブロック別講習会資料. 2010
消費者庁食品表示課. 脂質と脂肪酸のはなし. 2010